三菱帝国を崩したシャフト
シャフトの3大メーカーといえば、ツアーADを展開するグラファイトデザイン、テンセイやクロカゲシリーズ擁する三菱ケミカル、スピーダーやベンタスシリーズのフジクラです。どれも日本のメーカーですが、三菱とフジクラは海外にも開発部門があり、昨今の日本市場ではそのUS出身モデルが人気。
その人気はプロツアーで始まるもので、タイガー・ウッズ選手がテンセイCKプロオレンジを使い始めた途端、多くのプロがテストしました。この動きはアマチュアにも波及します。
そしてその三菱ケミカルの絶対的存在感を揺るがしたのが、今回比較するベンタスシリーズです。登場してから数多くのフジクラ契約選手がシフトし、あっという間に三菱ユーザーをジャックしました。一方で、ベンタスはハードすぎるしスペック選びやモデル選びが難しいという声があるのも事実。
そこでこの記事ではベンタスシリーズをコレクションする300yヒッターのリキが全てを同日計測をして比較・評価していきます。まずはそれぞれのベンタスの特徴を見ていきましょう。
ベンタスシリーズポジションマップ
ベンタスシリーズは2022年現在4つのモデルをラインナップします。
- ベンタスレッド
- ベンタスブルー
- ベンタスブラック
- ベンタスTRブルー
- ベンタスTRブラック
- ベンタスTRレッド
それぞれを下記のようなマトリックスチャートにまとめたものは後述してありますのでぜひ最後まで読み進めてみてください。テンセイやツアーADなどの他社製品も全て網羅している完全版はこちらから見ることが出来ます。

ベンタスレッドの特徴
方向性やターゲット
ベンタスレッドは、ベンタスシリーズで唯一捕まりが良いモデルとして設計されています。ほとんどのスペックで先調子になっています。ベンタスレッドは中打ち出し高弾道をコンセプトにしています。
つまり、ベンタスレッドのターゲットは以下のようになります。
- スライサー
- 弾道の高さが欲しい人
- 高弾道でもスピンは増やしたくない人
最後のスピンについては後述の試打データ比較で解説します。
スペック
ベンタスレッドのスペックは以下のようになっています。フレックスの値は低い方が柔らかいということになります。
これで見ても、他と比較しないと分からないので、剛性分布で見てみましょう。
このグラフは左がチップなので、ベンタスレッドがベンタスシリーズで最も柔らかいチップになっていることが分かります。もう一つの特徴は700mmの部分の山です。手元から中間にかけて少し剛性感を出していますので、強く手首で返す人にも“やわさ”を感じさせない配慮でしょう。

ベンタスブルーの特徴
方向性やターゲット
ベンタスブルーの方向性はフェード系です。世の中の評価では少し捕まるなどと言っている人もいますが、ベンタスブラックと比べない限り捕まると評価するのは安易です。
弾道は中弾道に設計されていて、これはスピン量を見ても納得感はあります。捕まりにくい分、バックスピン量が減りにくいので人によってはベンタスレッドより高スピンになることもあります。
- 中弾道フェードを打ちたい人
- 硬いフィーリングを求めている人
スペック
ベンタスブルーは5R2から9TXまで存在します。全体的にハードで、先ほど示した剛性分布のグラフでは中間から先端にかけて最も硬いシャフト。
ベンタスシリーズの中では一番硬く“感じる”シャフトです。

ベンタスブラックの特徴
方向性やターゲット
とにかく低スピンで低弾道になるというのがベンタスブラックの特徴。方向性に関しては特に特性というものはなく、安定感に欠けます。
ある意味一番癖があって打ちにくい、難易度が高いのがベンタスブラックだと思います。私は全く好きではありませんが、まれにベンタスブラックがマッチするヘッドもあり、その時の弾道はかなり良かったりするので諸刃の剣。私としては以下のような人に使って欲しいです。
- 飛ばなくても良いから低弾道にしたい人
- ゴルフクラブの特性を熟知していてセッティングを自分で考えられる人
スペック
もはやベンタスブラックにRというスペックはなく、ハードヒッター以外を全く相手にしていない潔いスペックになっています。
ほとんどの重量たいにTXが用意され、ウッド用としては異例の100g台なる10Xまで存在します。誰が使うんでしょうか。

ベンタスTRブルーの特徴
方向性やターゲット
ベンタスシリーズの後発モデルとして発売されたのがベンタスTRブルーです。スピーダーの低スピンモデル、スピーダーTRと同じ「TR」の名が冠されたモデルですが、その真意は不明。
ベンタスTRブルーのコンセプトは低スピンの中弾道なので、ベンタスブルーを低スピンにしたバージョンとも、ベンタスブラックを高弾道にしたものとも受け取れます。
スペック
ベンタスTRブルーのスペックは、50g台R2から80g台のXまでラインナップ。中調子でトルクが小さめに設計されています。
重量は他のベンタスシリーズと比べると若干重いように見えます。60g台と言いながら60g台後半ですからね。
剛性分布は非常に興味深いです。ベンタスTRブルーはチップとバットの剛性がベンタスブラックとほぼ同じなのに、中間には谷があり、打ち出し角度が高くなりそうな感じがしますね。見事にベンタスブルーとベンタスブラックの中間的な位置付けにしているのがベンタスTRブルーということになりそうです。

ベンタスTRブラックの特徴
方向性やターゲット
ベンタスTRシリーズで登場したベンタスTRブラックはベンタスブラックをさらに硬くした仕様。手元の剛性も上げているのでわけがわからないほど硬いです。
恐ろしいことに「少しもしならせたくない人向け」と言うコンセプトなので柔らかく使うことが出来ないシャフトです。
スペック
ベンタスTRブラックにはRと言うスペックがありません。レギュラーがないってどう言うことやねん。
そして、どのスペックもかなり重いです。5Sとか言っておきながら59gあります。剛性が高いし重いとなると結構しんどいスペックですね。通常のベンタスブラックよりもラインナップは少ないです。

ベンタスTRレッドの特徴
ベンタスTRレッドは、ベンタスレッドから手元剛性の高さと先端の柔らかさを継承しています。コンセプト的には中高弾道を打てる仕様とのことです。
スペック
ベンタスTRレッドは50g台のR2フレックスからあります。国内展開するかは不明ですが、このスペックなら国内で売ってもヒットしそうではある。
注目はキックポイントが70Xから中元になるという点。先端剛性が低いため先調子系と言われますが、実際は普通に中調子です。やはり剛性分布が重要なんです。

試打データ比較
ベンタス全種類比較
モデル | ベンタスレッド | ベンタスブルー | ベンタスブラック | ベンタスTRブルー |
ヘッドスピード | 54.2m/s | 54.4m/s | 54.1m/s | 54.3m/s |
ボールスピード | 76.7m/s | 76.7m/s | 75.6m/s | 75.1m/s |
平均キャリー | 311y | 315y | 307y | 302y |
平均トータル | 334y | 340y | 333y | 326y |
平均サイドスピン | 218rpmドロー | 117rpmフェード | 12rpmストレート | 256rpmフェード |
平均バックスピン | 2161rpm | 1968rpm | 2020rpm | 2125rpm |
平均打ち出し角 | -3.2° | -3.8° | -2.3 | -2.7° |
平均打ち上げ角 | 15.6° | 15.2° | 15.6° | 15.1° |
最大の高さ | 48y | 44y | 45y | 44y |
落下角度 | 43° | 41° | 41y | 42° |
左右ブレ | -35y | -13y | -11y | 4y |
ベンタスシリーズは全て低スピンです。同じヘッドスピードで打つのは至難の業なので流石にヘッドスピードを少し落としましたが、初速は結構違いがあります。予想通り、ベンタスレッドが最も初速が出ていますが、ベンタスブルーも悪くない数字でした。
白がベンタスブラックで、赤がベンタスレッド、青がベンタスブルーです。ベンタスブラックは高さに安定性が無いので、参考になりませんが右に飛んだ低弾道がベンタスブラックらしい弾道かなと思います。
これがベンタスTRブルーの試打結果。安定してフェードです。5球残しましたが、全てフェード。全体でも一球もドロー回転はしない徹底ぶり。
ベンタスTRブラックはドローで集まりました。
ベンタスレッド60S
ヘッドスピード | 54.2m/s |
ボールスピード | 76.7m/s |
平均キャリー | 311y |
平均トータル | 334y |
平均サイドスピン | 218rpmドロー |
平均バックスピン | 2161rpm |
平均打ち出し角 | -3.2° |
平均打ち上げ角 | 15.6° |
最大の高さ | 48y |
落下角度 | 43° |
左右ブレ | -35y |
ベンタスレッドは捕まりが良いですが、サイドスピンまでビュンビュン左に飛ぶわけではありません。
初速はベンタスブルーと同じですが、ベンタスレッドの方が飛ばしやすいです。最高飛距離はキャリー314y。

ベンタスブルー60S
ヘッドスピード | 54.4m/s |
ボールスピード | 76.7m/s |
平均キャリー | 315y |
平均トータル | 315y |
平均サイドスピン | 117rpmフェード |
平均バックスピン | 1968rpm |
平均打ち出し角 | -3.8° |
平均打ち上げ角 | 15.2° |
最大の高さ | 44y |
落下角度 | 41° |
左右ブレ | -13y |
単純に私が一番得意なシャフトだから飛んでいるという印象が強いです。ヘッドにもよりますが、今回試打したエピックフラッシュサブゼロではかなり低スピンに集まりました。
最高飛距離はキャリー316y。

ベンタスブラック60S
ヘッドスピード | 54.1m/s |
ボールスピード | 75.6m/s |
平均キャリー | 307y |
平均トータル | 333y |
平均サイドスピン | 12rpmストレート |
平均バックスピン | 2020rpm |
平均打ち出し角 | -2.3 |
平均打ち上げ角 | 15.6° |
最大の高さ | 45y |
落下角度 | 41y |
左右ブレ | -11y |
0か100かの弾道になりやすいのがベンタスブラックです。1600rpm〜2400rpmで、基本的には初速が出にくいので、スピンロスしている人でなければ飛距離は伸びにくいです。最高飛距離はキャリー312y。

ベンタスTRブルー60S
ヘッドスピード | 54.3m/s |
ボールスピード | 75.1m/s |
平均キャリー | 302y |
平均トータル | 326y |
平均サイドスピン | 256rpmフェード |
平均バックスピン | 2125rpm |
平均打ち出し角 | -2.7° |
平均打ち上げ角 | 15.1° |
最大の高さ | 44y |
落下角度 | 42° |
左右ブレ | 4y |
個人的に一番高評価しているのがベンタスTRブルーでした。一番飛んでいませんが、ベンタスTRブルーは安定性が非常に高いので扱いやすいです。
最高飛距離はキャリーで307y。

ベンタスTRブラック60S
ヘッドスピード | 53.2m/s |
ボールスピード | 75.9m/s |
平均キャリー | 303y |
平均トータル | 326y |
平均サイドスピン | 466rpmドロー |
平均バックスピン | 2187rpm |
平均打ち出し角 | 0.8° |
平均打ち上げ角 | 16.4° |
最大の高さ | 49y |
落下角度 | 44° |
左右ブレ | -30y |
平均キャリーが303yで、バックスピン量が安定しないので特徴が掴みにくいベンタスTRブラック。最高キャリーは309yですがドロップ気味。

ベンタスTRレッド60S
ヘッドスピード | 54.8m/s |
ボールスピード | 77.3m/s |
平均キャリー | 310y |
平均トータル | 332y |
平均サイドスピン | 273rpmドロー |
平均バックスピン | 2276rpm |
平均打ち出し角 | -1.4° |
平均打ち上げ角 | 15.4° |
最大の高さ | 49y |
落下角度 | 44° |
左右ブレ | -28y |
初速性能が高いのがレッドの共通点でした。スピン量は平均値でも少し多いですし、ベンタスレッドよりもドロップしにくいので安定して2000rpmを少し超えるくらいになりました。

振動数比較
振動数は硬さの計測方法の一つです。先程みた剛性分布の方がシャフト特性を詳細に語っていますが、知識がないと読めないので振動数でも比較してみます。
これに加えて、ベンタスTRブラックの振動数は267cpmです。
TRシリーズでもベンタスTRレッドは同じ60Sでも262cpmでした。
なんと、振動数はベンタスブルー以外ほとんど同じでした。逆にベンタスブルーが254cpmなのが意外でした。フィーリング的には硬い順にベンタスTRブラック>ベンタスTRブルー>ベンタスブラック>ベンタスTRレッド>ベンタスブルー>ベンタスレッドというイメージです。僅差ですが。
ベンタスシリーズの選び方
スライサーでドローにした人
スライサーの人でサイドスピンを逆にしたいのであれば、ベンタスレッドがおススメです。ベンタスレッドは捕まりが良いだけでなく、スピンも増えすぎないので飛距離アップも期待できるでしょう。
スライサーでフェードでまとめたい人
スライサー全員がドローにする必要はないと思います。比較的症状が重い人や、左が怖い人はベンタスブルーをおススメします。ベンタスブルーは捕まえようと思えば捕まるくらいの方向性なので、スペックを重くし過ぎなければベンタスブルーで安定したフェードが打てるはずです。この時、スピンが増えやすいので低スピンでやや捕まるヘッドと組み合わせるのがおススメ。
フッカーでフェードにしたい人
左へのミスが気になるのであれば、適正スペックのベンタスブルーかベンタスブラックが良いでしょう。また、弾道が低すぎるのが嫌、低いとスイングを崩すというのであればベンタスTRがおススメ。特にスイングレベルの高い人ならベンタスブラックも使いこなせると思います。
ただ、酷いフッカーはベンタスブラックで引っ掛けが出続けるので、絶対に直してくれるものではありません。
フッカーでドローにしたい人
打ち出し角度を右にしたいので、ヘッド選びの方が重要ではありますが、オープンフェースのヘッドにしたとして、ベンタスブルーがおススメ。フッカーなら球を捕まえるのが得意なはずなので、ベンタスブルーを出来れば少し重めのスペックにしてあげましょう。
ベンタスシリーズを図解
ミスの傾向も反映したマトリックスチャートを作ってみましたので参照ください。ベンタスTRの方がベンタスブラックよりも右に集まりやすいものの、弾道の高さはベンタスブラックが低いです。
また、ベンタスブルーはセンター付近なので一番万能とも言えますが、矯正力がないことと表裏一体です。
完全版はこちらにあります。ベンタスシリーズも、テンセイプロオレンジ1KやKai’liホワイトなどの最新モデル

まとめ
ベンタスシリーズは全てを試打する環境はほとんどありません。ですが、この記事である程度線引きをすることが出来たのではないでしょうか。
何かとテンセイと比較されるベンタスシリーズですが、傾向は全く違い、ベンタスの方が捕まりが弱いモデルが多い感じがします。より高いレベルを求められるのがベンタスシリーズであり、これを打ちこなせるだけの技量が必要になります。
是非ともチャレンジしてみてください。










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